個性という迷信

         四百四十

 

 世間に顕著な迷信は、人間には個性があるというものである。しかし、人間は個性を持って峻険に点在などしていない。ただ私たちはある人間について、あいつは善人だとか悪人だとか、頭がいいとか悪いとか、精力的だとか無気力だとか、美しいとか醜いとか言って、ぼんやりと区別しているだけのことだ。

 人間というのはみな流れる川のようなもので、どんな川もあらゆる運動の萌芽を秘めた水であることに変わりはなく、ある川は細かったり、流れが速かったり、またある川は広かったり、静かだったり、またある川は濁っていたり、暖かだったりするのにすぎない。どんな人も環境によって運動の形態をちがって見せるので、しばしばまったく別人のように見えるけれども、実際には、その共通した性質のゆえに、いつでも融合できる同一人なのである。