労働

          
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          三百七十五

 労働という賃取り仕事のあらゆる分野が、私の目から見れば、虚偽と悪が溶け合ったものだった。労働をすることは何ほどのものでもないと思いながらも、その虚偽と悪が明瞭に見えすぎて、真剣に参加を目論むことができなかった。とはいえ生きなければならなかったし、何もしないでは生きられなかった。私は働いた。そうして労働は、魂を脅かす脅威となった。私はその脅威を忘れたいばかりに、手近な熱中の対象に身をゆだねた。やたらに酒を飲み、馬券を買いあさり、女を抱き、書物に没頭した。誘われればあらゆる集会の場所に出かけ、飲み食いして身体が快く温まり、周りのすべての人びとに親しみを覚え、頭の回転が滑らかになって、どんな考えにもその奥を突き詰めるなどという煩わしいことはせずに、表面的に反応した。そうするとようやく私は、恐れていた人生のもつれは思ったほどややこしくはないものだと、漠然と意識するのだった。もやもやした頭でしゃべったり、話を聞いたり、本を読んだりしながら、そんなもつれは存在しないのではないかと疑ったほどだった。
 やがて、それがまちがっていることがわかってきた。やはり人生の結び目は恐ろしいくらいもつれていて、それを解 ( ほど ) くためには、生活の希望に満ちた充足によって救われることが必要なのだと痛感できた。希望の種類は千差万別で、人によってちがうということもわかった。ある者は虚栄の装飾で、ある者は博打で、ある者は学問で、ある者は政治で、ある者は女で、ある者は愛玩物で、ある者は冒険で、ある者は芸術で、ある者は商売で、それぞれの人生に希望を見出すのだ。くだらないものも、重要なものもない、みな同じことだ。ただ自分のできることで、人生のもつれを解きさえすればいいのだ、と私は強く確信したのだった。