進歩

         四百十七

 

 進歩と言われるものはすべて、質的な退歩を意味している。

貯蓄

          四百十

 

 貯蓄という機械的で低級な境地から人を救い出すのは、それぞれの年齢にふさわしい高級な享楽精神である。

無題

         四百九
 
 神や仏を言葉にする者は、なるほど、瀆神の行為をひけらかしたり、不敬の言辞を吐き散らしたりすることによって自分の立場を宣明する型の無神論者ではないが、『神や仏』を自分の成功や愚行を許容あるいは静観している他者、つきつめれば自分自身を指すほどのものとしか捉えておらず、熱烈な崇敬をこめて鑽仰される人格神と考えることは決してない。
 彼らは宗教の超自然的含蓄には興味を示さず、殉教の熱情など思案の外である。たしかに勤行や礼拝には、かなり規則正しく出席するが、それはもっぱら世間体のためであり、せいぜい説教に現世利益の演説会を期待する程度の興味があるからである。

 

 

まったき自由

               四百八

 

 行為がまったき自由なものであるためには、それがどんな障害にも遇わないことが必要である。その状況を想像するためには、私たちはその人間を社会空間の外に想像しなければならず、これは明らかに不可能である。

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無題

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          四百七

 知識が通俗化されている自信過剰な時代には、書物の出版というきわめて強力な浅学の手段のおかげで、人間の倫理的意志と行動についての問題が、問題そのものがもともと存在し得ないような地盤に移されてしまっている。いわゆる進歩的な人びとの大多数が、つまり無学者たちの群れが、問題の一面しか扱わない自然科学者たちの仕事を問題全体のすぐれた解決手段と思いこんでいるのである。

 

思索

 
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         四百六

 
人びとにとって思索は遊びだけれども、私は思索に心を奪われると、ほかはみな遊びになってしまう。

結果を生む思想

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          四百五

 

 巨大な結果を生む思想はすべて、常に単純なものだ。

偶然と天才

         

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四百四

 

 人間の生活が理性によって、とりわけ平凡な人びとの理性によって支配できるものだと仮定するなら、生活の彩りは消滅してしまうだろう。生活には偶然と天才が必要である。なぜそのような現象が生じるのかわからないことを、理性は解決できないし、ふつうの人間を超えた影響力を生み出す、どこから生じたかわからない人物を、理性は分析できない。理性は手近なわかりやすい現象の認識に有効なだけで、人間の究極の在り様を認識できないということを認めさえすれば、生活の中に一貫した理屈などないということが見えてくるばかりでなく、偶然と天才という普通の人間の理性を超えた実在の与える彩りがわかってくる。

感情

        四百三
 
私は、何かを立証しようと意気込む人びとに、一度も反論したことがない。一分前にはまるでちがうことを言っていたのに、
「そう、ぼくも同じように思う」
と答える。ことの意義と本質を見て取れる私にとって、そんな些細なことが何であったか、不幸の責任を自分で担おうが、彼になすりつけようが、そんなことが何だろう。私にはまったくどうでもよいことなのである。
なるほど私は、血気盛んなころ、その達成を目指していた唯一の目的から逸れるような言葉は、一言も口にしたことがなかった。明らかに、不本意ながら、どうせ理解してはもらえないだろうという苦い確信をもって、私は何度かさまざまな状況の中で自分の考えを述べたことがあった。虚しかった。予想したとおり、言葉だけでは、ことの意味を見抜いているわけではないという応対を繰り返されたのである。言葉だけでなく、私の行動も同一の目的に向けられていたのだったが―
進展してゆく現象の意義を洞察するこの私の非凡な力の源泉は、私がその純粋さと能力をいささかも損なわない形で自分の中に持っている感情にある。この感情があったからこそ、私は人間として周囲の人びとを救い、哀れむことに自分の力のすべてを傾けることができたのである。

法廷では

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         四百二

 

 法廷では、厳格で正確な語調で、

「姓名は?」

「どこにいたか?」

「目的は?」

 等々の尋問が行われる。これらの尋問は、法廷で行われるすべての尋問がそうであるように、肝心な問題の本質を脇に置き、その本質を解明する可能性を除外して、裁判官がそれを伝って被告の返答を流れ出させ、望みどおりの目的、つまり有罪の結論にそそぎこませたいと思うその樋(とい)  を敷くことだけを目的としている。被告がこの告発の目的に沿わないようなことを何か言い出すと、とたんに樋があてがわれるので、水は都合のよい方へ流れる仕組みである。

 

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