からだ

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 三百九十九
 
 医者に病気を根治させることは不可能だろう。私たちのからだは、突発事故がないかぎり、生態系という環境の中で定められた時間を、一定の老化に蹂躙されながら歩み切らなければならないようにできている。その生命維持の過程で、環境の影響と組織細胞の疲労から、身体の各部に異常事態が生じる。
 時間を歩むとはいえ、私たちのからだは新品の代替部品で修復可能な時計機械とは似て非なる生命体である。エネルギーの摂取は複雑に過ぎ、各部に油をさすこともできなければ、錆止めも効かない。 
 医者という時計屋にできることは、突発事故の事後処理か、異常事態を発生した生体時計をこじ開けて、めくら捜しにネジを探り当て、ちょっと調整のために触ってみるぐらいのところであろう。どれほど腕がよくても、あらためて回春のネジを巻くことはできないのである。