果てしない多様性

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         三百七十

 

 人間の考え方の果てしない多様性のゆえに、どのような真理も二人の人間の頭脳に同一に映ることがない。

<能力>

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三百六十九

 

 成功に必要なのは、刻苦勉励でもなければ、勇気でも、精勤でもなく、要は論功行賞を行なう側の人びとに取り入る能力、つまり、自分より上の、したがって自分に役立ち得る人びとにのみ近づき、そうした人びととの交際を何の疑いもなく求めつづける能力である。

世界

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       三百六十八

 

 科学はまるで娯楽のように、理解するためにすべてを分解し、観察するためにすべてを屠殺する。しかし、世界はすべてが一体であり、すべてが生きて結合したまま認識されなければならない。

人間本来の関心

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 三百六十七



 全体という名の人びとの関心はいつも、ある集団の政治的接近や敵意や内部的な改革に、特別な活気をもって向けられている。しかし、そのあいだにも個人的な彼らの生活はそうしたものの外で営まれ、彼らの主要なエネルギーはいつもと変わることなく、健康や、病気や、労働や、休息や、思想だの、科学だの、文学だの、音楽だの、愛情とか、友情とか、情熱とか、憎悪とかいった人間本来の関心に向けられている。

生と死

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         三百六十六

 「われわれの結社に入りたまえ、そうすればわれわれが人生の目的と、人間の使命と、支配する法則を教えてやろう、ときみは言う。だが、そのわれわれとは何者だね? 人間かね? どうしてきみたちはすべてを知っているのかね? きみたちに見えるものが、どうしてぼくにだけ見えないのかね? きみたちは地上に善と真理の王国を見るが、ぼくにはそれが見えないのだよ。……生と死、これだよ、ぼくを納得させるのは」

 トルストイ『戦争と平和』

倫理との婚姻

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三百六十五

 

 私の生き方にとって、これまで再々私を窮地に陥れた最も苦しい問題は、相手がだれであろうと、ぞんざいな自己過信の口調に接すると、その人間に面と向かって不快なことを言わなければならない、その人間が予期しないことを言わなければならないという気持ちが湧き上がり、いま自分が言うか言わないかに今後の自分の倫理生命がかかっていると感じ、自分を鞭打ちながらその不快な言を発してしまうことだった。これで学生時代の交友や、アルバイトは、そのほとんどを棒に振った。

 社会に出て苦しい窮地の数が皆無とは言わないまでも激減した理由は、私の倫理観が変わったからではなく、私の幼稚な猪突を喜ぶ上役や有力者がポツンポツンと現れたことによる。彼らは私の短絡的な倫理観を珍重し、賞()で上げ、群れの中の長として私を引き立てた。この幸運の車にはかならず終点があり、いずれは降りなければならない日がくるとわかっている。その日を私は恐怖していない。なぜなら、その幼い倫理観を基盤にして書きつづけてきた文学と、晴れて時間の障害のない婚姻を結べるからだ。

権力

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   三百六十四

 

 あらゆる権力とは永遠の陰謀である。

遠い声

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         三百六十三

 

 まだ社会一般からも、わずかな知人からもその才能を認められていないころに、不安に満ちた芸術家にとって真のメシアたり得る存在は、かつて人間の普遍に殉じた創造者の遠くから呼びかける声である。

喫煙者

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   三百六十二

 

 喫煙者にはそれがもとで、ぼんやりと、あるいは深く死を覚悟した記憶があるので、自らの不徳で死を覚悟した記憶のない者よりは、いささか自らの死に対して優位に立てるのではないかと思われるが、死の覚悟もなく健康に執着する社会に暮らす非喫煙者の苦悩たるや、あまりにも赤裸々としていて、私のような鈍感の者にも同情を余儀なくさせるものがある。嫌煙権運動でもわかるように、煙草を吸わぬ者は、人間を感情豊かにしたり知的作業にアクセントをつけたりするという煙草のブレッシングに浴していないため、その多くはヒステリックな人格を露わにする。それゆえ、彼らに逆らうときわめて不愉快な結果を招く。聞くところによると、アメリカの航空会社の場合、スチュワーデスが喫煙者を発見するやいなや、何の使命感に殉じてかは知らないが、あたかも犬猫に対するごとく激怒して怒鳴りまくるという。世も末だと言うほかない。しかし、何につけ死を意識に呼び戻して覚悟の臍を固める人間は、常に末の世に甘んじて生きている理屈だから、どのような災厄に対してもひたすら謐かに諦めるのが正解である。

賢治秀歌

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  三百六十一 【賢治秀歌】

        

  中の字の徽章を買ふと

    つれだちて

   なまあたたかき風に出でたり

 

  ひがしぞらかがやきませど

    丘はなほ

   うめばちさうの夢をたもちつ

 

  深みいきて

    はては底なき淵となる

   夕暮れぞらの顫ひかなしも

 

  風さむき岩手の山に

    われらいま校歌をうたふ

   先生もうたふ

 

  対岸に人石を積む

    人石を積めど

さびしき水銀の川    

 

  雲ひくき峠越ゆれば

    (いもうとのつめたきなきがほ)

   丘と野原と

  さだめなくわれに燃えたる火の音を

    じっと聞きつつ

   停車場にあり

 

  けはしきもやすらかなるも

    ともにわがねがひならずや

   なにをやおそれん

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